まいにち。まいにち。

「誰からも頼まれもしない」ことを勝手にしよう(森博嗣)

雲をつかむ話

期日前投票を済ませてきた。
 
選挙の行方は人の動きのみを端的に追うだけで残念ながら政策については語られていない。特に、新たに生まれた党があったためにそちらの動向が取りざたされる傾向にある。開票が始まるまでどうなるかを予想することはしないが、結果が出た後にどうなることが考えられるかをここで書き留めておく。
 
選挙でだれを選ぶのか転職活動と同じだと考えている。新卒採用の多くがポテンシャル能力に焦点を当てているのに対して、転職活動では実績が評価される。
残念ながらこの国の選挙では新しい話題を振りまき、ニュースになることで立ち位置が決まることがある。新人を選ぶのであればともかく、すでにその地位にいた人が適当であるのかを選ぶには、その人が何をやって何をやらなかったのかを振り返る。声高に叫ぶ人たちがこれから何をやるのかはわからないが、彼らがこれまで何をやってきたのかははっきりしているからだ。
 
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民意、という曖昧な言葉が当たり前になったのはもう10年も前のことだろうか。政治家が「民意」という言葉を使うとき、それはたいてい自己を正当化するための補助材料として使う。一方メディアが「民意」という言葉を使うときは、反体制の意味が込められている。開票速報が流れ、大まかな体制が出たときに使われる「民意」という言葉が使われたとき、それは投票結果から帰納的に結果を正当化されただけである。
民意とは、具体的に操作可能な形では存在せず、それ故に為政者も民意によって自己正当化はできない。総ての関係者が民意への接近を巡って永遠の政治過程を続ける。民意は遠近法でいう「消失点」のようなものである”
「小池都政における都民と”民意”」金井利之
 
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CDPの盛り上がりを見ていると、新しいものに対する期待というよりも、忘れ去られていた「民意」を台頭しているかのような雰囲気がある。投票によって議員が選ばれる以上、多数決で選ばれた議員が、より多くの信任を得た、すなわち民意を得たと帰納的に解釈することはできるが、それは積極的なものではなく、消極的(ましなものを)な選択なのだろう。CDPへの盛り上がりは積極的に指示ができる政党という意味で民意という言葉が使われているのかもしれない。
 
とはいえ、CDP は果たして新しいのだろうか。枝野氏は短い時間ではあったが既に政権運営をしている。果たしてその時の彼の働きはどうだっただろうか。彼が寝ずに働いていたという一時の問題ではなく、あれから6年たった今でもまだ決着がついていない事象について彼の働きぶりがどうだったのかを冷静に振り返る必要があるだろう。
 
また、補助や福祉に力を入れる必要があれば、財源が必要になるが、その出所についてはほとんど議論されていないのも気になっている。社会的弱者を守るためには高負担は避けられないのだが、痛みという言葉に過敏になりすぎ、ただ浮ついた言葉だけが先走りしている。
 
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少し前に読んだアステイオン「権力としての民意」特集はアメリカをはじめ、欧州やアジアなどで変わりつつある政治情勢を知ることができたのだが、一人一人が切実に感じていることが政治に反映されず、不満を抱いている人達は全体的に増えてきているようだ。日本においては特に野党は人材が不足しているのに賃金が上昇しないとしてアベノミクスのありかたを批判している。
 
「人手不足なのになぜ賃金が上がらないのか」では、複数の切り口でその謎の解釈を試みている。中でも賃金の下方硬直性が上方硬直性を招くという意見と、全体的に上がっているものの、人手不足を解消するために労働力を構成する人数が増えた(一億総活躍など)ものの、平均すると正社員の給与との差は大きいために下がっているように見えるという意見が印象に残った。賃金の下方硬直性とは、現状維持バイアスにより、賃金が上昇するよりも、下がることを好む傾向がある。もともと一定の金額賃金が増えたときよりも、減ったときにより幸福度が下がるという性質を私たちは持っているが、この下方硬直性が保たれた結果、賃金の上昇が抑えられている。
 
また、賃金を上げるための経済環境としてOff -JT(Off the Job Training)の重要性が指摘されている。端的にいうと、仕事以外の時間で自分の能力を向上させる機会を設けるのが賃金を上げる手っ取り早い方法だという。一方で人材不足な雇用者側も誰でもいいわけではなく、既に訓練された実績のある人材を欲しいと思っている。売り手市場だからといって大会に出ても自らの無能さを自覚するだけに過ぎない。
 
誰かが釣った魚をいつまでも与え続けるのか、それとも釣り方を教えるのか。 ただ乗りや空虚な希望は開票までの熱狂は続いてもそのあとは堕落を招くだけである。 公約の達成度が振り返られずに、また新たな期待をもとに投票日を迎える。
 

アステイオン 86  【特集】権力としての民意

人手不足なのになぜ賃金が上がらないのか