まいにち。まいにち。

「誰からも頼まれもしない」ことを勝手にしよう(森博嗣)

田邊優貴子さんの話を聞いてきた

 極地でフィールドワークを行いながら研究をしている田邊優貴子さんの話を聞いてきた。

地球の果てに広がる森、小宇宙としての南極湖沼 | イベント | d-labo

  
田邊さんはこれまで定期的に北極や南極の極地に調査に出かけている。
最初に研究者を選んだきっかけはもともと東北地方の出身で学生時代からバックパッカーとして海外を訪れていたという。その中でも特に極地を選んだのは、小学生の頃に触れたアラスカの自然へのあこがれが強かったという。研究者の道に進むと決めるまでは旅行は趣味として割り切ろうと考えていたそうだが、実際に大学で今後の進路を決める際に大学を1年休学してアラスカへ行ってからは極地の研究者として歩むために極地の研究ができる研究機関に転学をして今に至る。
1年間休学してまでアラスカ旅行にいったり(春から秋にかけてアルバイトで旅行資金をため、秋から冬にかけて旅行をした)、大学院になってもその熱はおさまらず、旅行に出かけていた。
元もとアラスカ旅行を最後にするつもりだったが、日本に戻っても悶々とした日々を送っており、そこから「もう自分を押さえつけるのはやめよう」と意識を改め、旅に出ることをいとわなくなったという。
研究者になるまでの紆余曲折を聞きながら、こういう人もいるのだな、その行動力に羨ましく思い(探検家のようだった)、一方で周りも大変だったろうなと思いつつも世界を飛び回っている研究者は天職なのだろう。
 
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北極と南極に生息する動植物の話は興味深かった。
どちらも極地ではあるが、南極は北極と異なり他の大陸から離れており、周囲は常に強い海流が流れているためわたってくる大型動物がいない。また、氷におおわれている地面が少なく、地表で生活する動物は繁栄できない。そのため生活ができるのは海で魚をやオキアミを餌とする鳥類やペンギンなどが天敵がいないため、地面に卵を産んで育てる鳥(ナンキョクオオトウゾクカモメ)がいたり、飛ぶのがあまり上手くない鳥(パフィン)がいる。一方で北極と南極を行き来する鳥(キョクアジサシ)もいる。
南極の地表では動物の死骸があっても分解する昆虫類がおらず、ほとんどがミイラ化する。3000年前に死んだ動物は周囲にうっすらと地衣類が周りに覆っているもものの、その形をとどめている。
一方で淡水湖の底には三角コーンのような形をした藻(コケボウズ)が茂っている。その湖は窒素だけの含有量を調べると日本の湖よりも栄養分が多いという。しかし、太陽からの強烈な紫外線によりそれを主食とする魚は生存できない。などなど。
 
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「将来の夢は」という質問には「できる限り外に出て調査をしていきたい」と答えていた。
今は技術が発達して外に出なくてもデータを得られるが、実際に何が起きているのかは現地で見てみないことも分からないことが多いという。ある時、コケボウズの成長過程をモニターしていた所不可解な動きをすることがあった。ただ画面を見ているだけでは何が起きているのかは分からない。当時の気象条件と照らし合わせてみると湖面に強いブリザードがふぶいており、水面に張っていた氷が風によって圧迫され、水底のコケボウズの不可解な動きにつながっていたことが分かった。確かに得ようと思っているデータだけを観察していても予想がつかない所で他の因子が影響していることがあるだろう。自然を相手にする場合は特に。
 
話が終ったあと、去年出版したという本を読んでみた。そこでは当日話されなかった話題があった。田邊さんの家系に遺伝性の難病(治療法が見つかっていない)があり、身近な親族にも近い症状があらわれており、いつ発症するかもしれないなかで虚無感にさいなまれていたという。しかし、旅行先の大自然「生きている」という感覚を取り戻すことができたと書かれていた。直接話を聞いていた時には明るい方で話をしていたので全く分からなかったのだが、その理由を知り、学生時代に海外を飛び回っていた理由も、そして実現したい夢もうなずけるものだった。
 
田邊さんは近々また極地へむかうという。
機会があったらまた話を聞いてみたい。
 
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すてきな地球の果て (一般書)