まいにち。まいにち。

「誰からも頼まれもしない」ことを勝手にしよう(森博嗣)

Before/After

1月の初旬に新型肺炎のニュースを初めて見たとき、ここまで世界中に広まることを考えてはいなかった。どこか対岸の火事。それがアジア、ヨーロッパそしてアメリカと広まるにつれて、事の重大さが改めて浮き彫りになった。
 
日本はアジアからの水際対策に成功したかのように見えた。花粉症シーズンということもあり、マスクは一般的に普及している。それにもともと相対的にきれい好きな国民性もある。この時から既にリモートワークとしていた企業もあったが、ちょうど桜の時期と気候が温かくなってきたことも重なり、ようやく日常に戻れるかと思ったが、甘かった。
 
花見は既に自粛されていたが、連休を利用して行楽に出かける人達はそれまでの反動もあり、多かった。週末に開放される銀座の歩行者天国は、海外からの観光客を見つけるのが難しいが、インバウンドで騒がれる前の銀座に戻ってしまったかのようだった。ユーフォリア、という言葉はこういう時のことを言うのかもしれない、今思えば。
 
勿論ウイルスは生き残るためにこのタイミングを逃さなかった。その時から約二週間たち、間もなく非常事態宣言が発令されようとしている。
 
宣言が発令されたとしても強制力は限られる。のような罰則付きでできないのかは我々が試されている。しかし、もはや性善説が成り立たない事件は所々で起きている。ある程度抑えられても、劇的に減らすのはなかなか難しいのではないだろうか。国は違えど人間の本性は変わらない。イタリアでは地域が封鎖される前に移動して、より感染が広がった。これはすでに日本でも起きていることでもある。
 
感染症は社会の在り方そのものを変えることが良くも悪くも明らかになりつつあるが、これを乗り越えるためには先人の知恵、つまりは読書してその考えを適度に取り入れて使っていくのが有効だと思う。
 
幸か不幸か年度が切り替わるタイミングでもあり、新しい立場になる学生などに向けて既にいろいろなところで本の紹介がされているが、ここでもこれまで読んで来た本の中で改めて読み直したいという本を紹介したい。
 
1.確率思考 by アニー・デューク
 
確率思考 不確かな未来から利益を生みだす

確率思考 不確かな未来から利益を生みだす

 

 

最初に自粛要請が始まり、経済に影響が出ている中、政府は様々な取り組みを提言したが、多くの批判を浴びたのが一つのプランしか考えられていないという状況である。著者は心理学の大学院を中退してプロのポーカーにとして活躍したが、彼女がポーカーという不確実性の高いゲームに対してどのような取り組みを経て強くなったのかが書かれている。ちなみにポーカーの知識は事前に仕入れていて損はないが不要である。
賭け、については日本では正直あまり良いイメージを持たれないが、不確実な未来に対して、今ある状況から予測されることを適切に判断し、行動に移す。そしてフィードバッグすることは不確実性が高まっている今だからこそ注目されてもいい事だと思う。
 
本書で印象に残った部分をかいつまんで挙げると、
・意思決定の手順と結果は分けて考える。
・後知恵バイアス(結果が出た後に、そもそもその結果は避けられなかったものとしてみる)に注意せよ。
・自分の主観に対して幅を持たせる(0か1かで考えない、例えば自分の考えの正しさは60%など)。それにより謙虚になり、他の情報を受け入れる余地ができる
・過去、現在、未来の自分と頭の中で対話する(意思決定の時間割引を考慮する)
などなど。
 
2.自滅する選択 by 池田新介
 

 

自分で選んでいるのに、自分の利益に反する矛盾した行動のことを筆者は「自滅する選択」と呼ぶ。例えばダイエットをしたいのに誘惑に勝てないで食べてしまう、など。超今の時期はできるだけ自宅で生活することを強いられている。これに関して、首長やアナウンサーなどは、ひたすら頑張る、耐えるなどの根性論を引用し、前時代的な掛け声ばかりだが、この本で書かれている学問に根差した考え方を有効活用すれば、活動が制限される状況であっても、比較的快適に過ごすことが出来るのではないか。
 
本書で気になったのは以下
・意志力は枯渇する(3連休の賑わいによる感染の拡大を招いた)。枯渇した意志力を再生するにはつらい選択が困難になる。
・計画や活動は短く、段階的に。本能や衝動性の影響が弱い環境で行う。
・ルールや計画には守れば守るほど自己強化的な性質があり、これが行き過ぎると教条的なものとなり、長期的な大きな損失になる。これを避けるために、ルールは意図的に破ってリセットし、相対化することも必要
 
 
3.ネットワーク科学
 
ネットワーク科学 (サイエンス・パレット)

ネットワーク科学 (サイエンス・パレット)

  • 発売日: 2014/04/25
  • メディア: 新書
 

 

このところクラスターという言葉が頻繁に聞かれるようになったが、これを明らかにすることによって、今まで不明だった感染が広まったネットワークが明らかになった。
本書はネットワークそのものが持つ性質を比較的平易に説明している。監修者の増田直紀氏による「私たちはどうつながっているのか」もおすすめである。
 
ちなみに、アメリカで感染が広まり始めたとき、6次の隔たりで有名なケビン・ベーコン(別名ベーコン数とも呼ばれる)が家にいることを呼び掛けている投稿が印象的であった。

 本書では感染症についての記述もあり、ワクチンを優先的に接種させるにはどうすればよいかを書いた論文を取り上げている。

 
Efficient Immunization Strategies for Computer Networks and Populations 
Reuven Cohen et al.
 
ハブ(ネットワークで多数のつながりを持っている人)の選び方は、まず人をでたらめに選び、選ばれた人にネットワークで隣接する人の名前を尋ねる。
これを繰り返すとあげられた名前の一覧に最もよく表れる人は、社会ネットワークにけるハブである可能性が最も高い
しかし、実際の社会においてはハブを迂回する余分な経路が存在する等により、その効果が損なわれる場合もあることも検討しなければならない。
 
ワクチンが開発されたら、まず優先されるのは医療従事者と、生活維持に必要な仕事を行っている小売業や食品、運送業の方になるだろう。
日本での広がりを見ても、まず最初に感染が広がったのはサービス業などの不特定多数の人と接触する立場の人から広まった。一般的に彼らの社会的立場は決して強くはないものの、投与の優先順位としては高いものであるし、これが後回しにされると再度感染が広がる可能性もあるため、専門家の判断が優先されることを祈っている。
 
おまけ.グローバリゼーションパラドクス by ダニ・ロドリック
イギリスのBrexitが騒がれ始めたころの本ではあるが、グローバリゼーションの行き過ぎに事例を挙げて警鐘を鳴らす。今回は特に感染拡大を防ぐために欧州は国境を閉鎖することとなった。さらに、EUとそれ以外の国とで援助に差が出るとともに、それをみた中露が支援を差し伸べるなどこの感染症問題が下火になったときには新たな問題が勃発することは予想できるものである。
著者は、グローバリズム・国家主権・民主主義 この全ては同時に満たすことはできないトリレンマの状態にあるという。例えば、現在の中国では民主主義を犠牲にして国家主権とグローバリズムを拡大させているし、ロシアもそれを倣っている。また、純粋な理想としては国家主権を犠牲としてグローバリズムと民主主義を取ることはできないことはないが、それ自体は国連のような組織のようなものであり、国としては存在し得ないのではないか。とするならば、グローバリズムを犠牲にして、国家主権と民主主義に注力する国が増えてくるのだろうか。今回の感染症ではサプライチェーンがあまりに多岐にわたるためにリスク管理を再考させる事態になった。かといって、国内回帰をすれば、コストで海外製品に対抗できるだろうか、など考えは尽きない。