まいにち。まいにち。

「誰からも頼まれもしない」ことを勝手にしよう(森博嗣)

原田マハ×高橋瑞木

5/10のインスタグラム上で行われた小説家の原田マハさんと香港のCHATのキュレーターを務める高橋瑞木さんの2時間のトークを聞く。
今後アーカイブとして残してほしいと思うほど充実した時間だったのだが、このあと残るかわからないので記録のために印象に残った部分を残しておく。
 
インスタグラムのライブが基本1時間のようで、休憩をはさみ二回に分けて行われた。もともとは最近刊行された共著の新書「現代アートをたのしむ 人生を豊かに変える5つの扉」の紹介の予定だったが、あまり中身を話しすぎると買ってくれなくなってしまうかもしれないということで、前半はふたりの出会いのなれそめや今までの仕事の経緯などを説明があった。
 
原田さんが一念発起して早稲田の二文(今はない)を受験して一度は面接で落ちた(アンディーウォーホルをテーマ)ときの話や高橋さんが漫画を基にした論文を書くための留学費用の工面や結果として二人が仕事仲間として再会することになる経緯など印象に残る。
 
・美術館の楽しみ方の変化
スマートフォンの普及が圧倒的に影響を与えている。作品とともに一緒に映った写真を記録する美術館を訪れる一つの楽しみになっている。また、お目当ての作品をいの一番に見に行くことも一つの見方ではあるが、会場全体の作品の配置や空間も含めて作品も見ることはその場に訪れることならではである。
 
・2019年のContact展
2019年に原田さんが企画した清水寺のContact展では作品の配置をあえていつもよりも近く鑑賞できるような配置にしたという。作品にもしものことがあったときの責任は原田さん自身が負うとして監視員としてもその場にいたようなのだが、参加した人は適切な距離を取って鑑賞してくれたことにとても感銘を受けた。
美術館の中に作品が配置されているだけで美術館として完成しているのではなく、人々と作品とのinteractionが行われている空間こそが美術館であると感じた
 
 
Conact展を行うに際して念頭に置いていたのはドイツ、デュッセルドルフのインゼル・ホンブロイッヒ美術館( https://www.inselhombroich.de/de)だという。
美術館の成り立ちは 以下が詳しい
 
この美術館は原田さんが森美術館準備室に在籍していた際に世界の美術館を訪れて構想を練っていたときに森ビルの森稔氏と共にこの美術館を訪れた。リンク先の紹介にあるようにこの美術館は森氏と同じくディベロッパーでコレクターの カール・ハインリヒ・ミュラー氏によって作られたのだが、作品の展示が独特で空調の環境には置かれていない。驚いた森氏が理由を尋ねると、この作品が作られた時代にはそのようなものはなかったでしょう、と答えたという。(もちろんこれはコレクターとして所有している作品だからできるものである)
 
・コロナが美術館に与える影響
ブロックバスターと呼ばれる展示はやりにくくなるだろうし、海外から作品を借りてくるにも制限がかかるだろう。しかし、これは作品の貸し借りだけではなく、人と人との交流も含まれているのが重要な点でもある。
一方で日本の美術館では、各々が持つションに焦点を当てた展示や、展示内容で独特なものが出てくるのではないか、という期待もある。
 
・アートは無言の友人
現代アートを楽しむ、のあとがきで高橋さんがアートを見た後に感想を話していくうちにお互いの人生や悩みについて話している。アートが各々の心の中にMediumとなって新たな視点を提供する、無言の友人だ、という一節を朗読。
 
***
 
感染症の広まりによる美術館をはじめとする多くの公共施設の閉鎖は今年の初めには全く想像もつかなかった。当初は事前予約制で運営していたアーティゾン美術館も閉館され、終わりが閉塞感がありながらも、以前とは同じ状態には戻れないことは薄々わかりつつある。対談で言及された影響や今後の美術館で作品を見ることがどうなっていくのか、そのヒントはWeb版美術手帖でも書かれている。
 
見せ方はいろいろあるだろうけれども、やはり体験しないことは意味はない。
 
今回の対談のアーカイブが公開されるのかはわからないが、もしされるとしたこちらのアドレスになるだろう。
また好きな時に好きな美術館を訪れる日を待ちわびている。