まいにち。まいにち。

「誰からも頼まれもしない」ことを勝手にしよう(森博嗣)

「指を置く」展

 銀座グラフィックギャラリー(ggg)で28日まで開催中の「指を置く」展を見てきた。

正しくは見てきた、というより体験してきたというべきか。
単に目で見るだけではなく、身体の一部(指)を展示物に触れて体感するからだ。
 
「この展覧会は、佐藤雅彦と齋藤達也が「指(身体)とグラフィックデザインの新しい関係」をここ数年探求してきた中で生まれた新しい表現、新しい表象、新しい可能性を、会場で来館者自らがさまざまなグラフィックに「指を置く」ことで体感してもらうものです」 (紹介文より引用)
先ずは入口をはいって右側にある指を備え付けのウェットティッシュで指をふく。展示物に触れるためである。小学校のクラスのように整然と並べられた机の上に展示物がおかれている。展示物はどれもいちまいの紙に印刷されたグラフィックだ。それら様々なシチュエーションに指を置いていく。どの指を置くのかは壁に記されている。(指の配置はホムンクルスの絵にあるような鋭敏な感覚を持つとされる人差し指が多い)指を置く前と置いた後では何かのスイッチが入ったようになり、もやもやとした感情が生まれる。
 
その感情は人によって変わるとは思うが、私の場合は指を置いたとたんにグラフィックの中の世界に閉じ込められたような感覚だった。似たような感覚でいうと、小説を読み進めている時、いつの間にか周りの雑音が気にならなくなるほどその世界に没入することがある。いわば極度に狭い範囲に意識が集中している時の精神状態である。1階の展示は机の上にその大きさよりも少しだけ小さい紙の上にグラフィックが描かれているので、あたかも額縁の中の世界に迷い込んだような感覚になる。
 
いくつかの展示には机の下に分類の説明があり、引き出すと読むことができる。
B1階にはより大きな展示物がある。
 
今回の展示を企画した佐藤さん、斎藤さんは指を置いたときに生まれるこの奇妙な感覚をいくつかの分類を紹介している。種明かしをしてしまうと、どういう感情が生まれるのかが予想できて楽しめないと思うので、詳細については実際に見て感じてほしい。
 
分類についてはいくつか説明があるが、先ずは分類を読むというよりも展示物に触れたときにわき上がった感覚を覚えておくといいかもしれない。一通り見終わったら解説をみて、なるほどこういう感じなのか、と分類された説明を読んでなるほど、と思う。
 
この展示を実際に見て楽しむコツは大きく分けて二つあると思う。個人差もあるとは思うが気になったので書きとめておく。
 
・一つは指先の感覚がある程度敏感になることだ。例えば手帳の1枚分を親指と人差し指で挟んで厚みを確認する。次に1枚を5枚に増やしてみる。明らかに5枚の方が厚みがある。しかし、5枚の厚みと4枚もしくは3枚となると最初のうちはその厚みの違いははっきりと分からないのではないだろうか。しかし、紙の一枚一枚の厚みに注意を払い、指先に感じる微妙な差異に気づくようになると、展示されているグラフィックに指を置く時の印象が敏感になる。会場ではいくつもの種類の展示があるが、普段タッチパネルに慣れてしまい、指先への感覚に意識を払っていなかった私は作品に触れたときの感覚を感じ取るまで時間がかかった。ただ展示物に指を紙の上に載せて行くうちに次第にグラフィックから受ける印象をより敏感に感じ取ることができた。
 
・2つ目は展示に触れるときに肩に荷物はかけておかないことだ。これも指先を敏感にすることにも関係するが、指を置くときに肩が圧迫されている場合、指先から伝わってくる感覚が阻害されてしまう。単なる平面のグラフィックなのだが、実際に作品に指を置くと、指先の感覚と視覚から得られる情報が脳の中で統合されて一つの感覚になっている感じがする。
 
佐藤雅彦さんのページにも今回の展示に触れている丁寧に展示のことに触れているが、どう感じるのかは実際に試してみてほしい。