まいにち。まいにち。

「誰からも頼まれもしない」ことを勝手にしよう(森博嗣)

2014年に読んだ本のこと

昨年はいろんな本を読んできた。なかでも特に印象に残っているものを紹介しようと思う。
※あくまで読んだ本であって、出版が2014年というわけではありません。
 
 
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1.言葉と歩く日記 (多和田葉子)

作家の多和田葉子が自らの著書「雪の練習生」のドイツ語版を執筆中に書いた日記。(彼女はドイツに住みながら作家活動を続けている)ちょうど言葉と日本語の使われ方について気になっていたため、興味深く読んだ。日本語という言葉が持つ曖昧さとそれでも伝えていかなければならない作家の強い意志を感じた。日本語について興味のある方はこの本と平田オリザの「演劇入門」、及びその中で引用されている本を読み進めていくといいかもしれない。
 
 

 

 

言葉と歩く日記 (岩波新書)


 
 
 
2.コンピュータが仕事を奪う(新井紀子)
東ロボ君(ロボットは東大に入れるか)プロジェクトを担当している新井先生の著書。


ロボットは東大に入れるか。Todai Robot Project

2014年はニュースを見ているとロボットがより身近な存在になりつつあるように思えた。個人的にペッパーの登場は衝撃だった。実際販売されるのは今年からだろうから、一般家庭に導入されたときにどのように使われていくのかを見守っていきたい。また、ヒト型ではないロボットでは補助用ロボットとして介護や建設現場などヒトの負担を軽くするロボットが導入され、効率化につながることを期待される。
 
 本書ではロボットが得意な作業と苦手な作業を説明し、ロボットが人間に完全に取って代わることは否定している(あくまでロボットは蓄積データから傾向を割り出すだけであり、全く予想ができないものについては対処できない。かといって、安寧してばかりでもいられない。AmazonMechanical Turkのような機械は苦手だがヒトが得意な単純作業を安い値段で依頼しているという現実がある。著者は「コンピュータが苦手で、しかもその能力によって労働の価値に差異が生まれるようなタイプの能力で戦わざるを得ない」と主張する。IBMのワトソンの登場もあり、蓄積されたデータをどう有効活用されるかはこれから身近になっていくと思われるが、それをどう使うのかは私達にかかっている。
 

 

 

コンピュータが仕事を奪う

 
 
 
3. 優生学と人間社会 (米本昌平ら) 
 
この本は前から読もうと思っていたのだが、2014年はデング熱エボラ出血熱の感染が問題となり、以前途中で読むのを止めてしまっていた「破壊する創造者-ウイルスが人を進化させた」をきっかけに読み始めた。
この内容については以前blogに書いたのだが、優生学といういわゆるトンデモ本ではなく、身近になってきている出生前診断や遺伝情報診断といったものがどのような歴史を経て生まれてきたのか、を国ごとに分かれて説明がなされている。コンパクトに収められているものの、内容は非常に濃い。
 

 

 

優生学と人間社会 (講談社現代新書)


  
4.ネット・バカ(ニコラス・カー)
いつも思うのけど、洋書の邦訳のタイトルは誰が付けているのか、(それは洋画のタイトルとの違いも含めて)奇を狙っているものがあるのは残念に思う。この本は中川淳一郎さんの「ネットはバカと暇人のもの」とは異なる立場でインターネットと紙の本ではどのような違い(例えば読み方など)があるのか、を研究結果を引用しながら本ができた歴史と合わせて書かれている。原題はThe shallows、と少し抽象的ではあるが、内容を読めばその意味は分かるだろう(映画でいうとgravity とゼロ・グラビティに近いものを感じる)
 中でも、ヒトがインターネットの記事を読むときの視線がアルファベットのFのように移動する、であったり、リンクが多数つけられている記事は付けられていない記事よりも内容が理解されにくい、など、近頃一般になっているまとめサイトやニュース記事を読むときに注意したい情報がいくつもあった。
 

ネット・バカ インターネットがわたしたちの脳にしていること

 
 
5. 生まれたときからアルデンテ(平野紗季子
食べ物のエッセイというと既に山ほどあって、またその一つなのか、と思いきや中身を開くとそうでもないことに気づく。子供のころから外食した店の感想を書いていたり、参考資料として食の古典的な本が紹介されていたり。最近訪問した店では高そうなフレンチもあるが、お風呂で食べるパピコなど値段ではなくどう食べたらおいしいのか、に注目したレシピもある。(レシピというほどでもないかもしれないが)
口コミで口に入れる前に既にある程度の情報を入れておいて、お店のイスに座ったら答え合わせをするように食べることには抵抗があるという。私自身は映画はその方法で(予告編をみて見るか見ないかを決める)選んでいるけれど、お店は事前に調べて行くことが多くなっていた。けれど、この本を読んであえて事前情報を抑えるようにすると、点数は良くても入店するのをためらったり、その逆があったりと椅子に座る前でも店を観察することによって少しは店を選ぶ力が付いたのかな、と思う(もちろん外れることもあるのだけど)外食産業はお客の奪い合いで浮き沈みが激しいけれど、自分の口で確かめて気に入った店は長く付き合うようにしていきたい、と思わせる一冊だった。
 

 

 

生まれた時からアルデンテ

 

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その他、色々な本を読んできたけれど、改めて思うのは大雑把に物事を把握にはインターネットの記事は便利だけれど、著者の考えや世界観に浸かるには本を読まなければならない、ということだった。どんな本を読んだら分からない、のであれば西沢平良さんの子のつぶやきを参考になるかもしれない。

 

 

量を読むこと=複数の考えに触れることであり、考えの多様性こそが批判(critic:元の意味はjudgement)につながる。

ということで今年もできるだけ多くの本を読もうと思っている所です。