セザンヌと歌麿
休みが取れたので1泊2日に箱根に行ってきた。
箱根は小学生の旅行以来だった。都心から2時間ほどで箱根湯本に。
そこから登山鉄道に乗り40分ほどで強羅駅につく。
(両者の位置はバスの路線では反対方向だけど、ポーラ美術館と岡田美術館はバス1本)
○セザンヌ展(ポーラ美術館)
セザンヌの作品を好きになったのは比較的最近で3年前に訪れたロンドンのcourtauld galleryで見たセザンヌの風景画だった。夏休みを利用して初めて訪れたロンドンの印象をひとことで言うならば青々とした緑。Buckingham宮殿そばのGreen Parkに設置されたロッジの上で日向ぼっこをしながら眺めた木々の青さはその後にみたセザンヌの一連の風景画に描かれた緑をロンドンの公園の緑に重ね合わせていた。
まだ展示は始まったばかりなのであまり詳しくは書かないけれども、特に良いなと感じたのは
・師、ピサロに学んでいたころの作品との比較
(セザンヌからは批判されたようだけれども)
・「ラム酒の瓶のある静物」の動画解説
会場で初めて見る人にもCGを用い、一つの絵に複数の視点が含まれていることの面白さを解説している。
あくまでもこの展示はセザンヌが主役だけれども脇を固める作品もなかなかお目にかかれない。
ポーラ美術館はセザンヌ展以外の展示も充実しているのでお勧めです。当日であれば再入場ができるので、美術館のすぐ外の散歩道を散策するのもよいかもしれません。
○喜多川歌麿「深川の雪」(岡田美術館)
深川の雪は歌麿が最晩年に手掛けた縦2m×横3mの大作。「品川の月」、「吉原の花」と合わせた雪月花の三部作のうちのひとつ。月と花はアメリカの美術館にあるとのこと。
この「雪」を直接見られてよかったのが、前2作に比べても完成度の高さにあると思う。参考資料として2作の縮小版をみたけれども、前二作が「雪」のための習作であるかのような巧みな構図で、見る物に余すところなく作品に描かれた登場人物に視線を行きわたらせる。一つの絵の中に複数のストーリーが描かれ(それぞれは独立してはいるものの)、それが違和感なく緩やかにつながっている。
しばらくの間圧倒されたまま立ち尽くすしかなかった。箱根という少し都心から離れていることもあるのか、(平日の月曜の午前中ということもあってか)しばらくただ一人作品と向き合うことができるのがこのような美術館を訪れる醍醐味でもあるなと思う。
○円山応挙・源琦(げんき):「三美人図」
円山応挙と弟子の源琦が描いた3人の美人画。中央には応挙の描いた高い位の花魁、脇を固めるのが源琦の描いた若い女性二人。遠巻きに眺めただけでは3人の違いが分からないけれども、中央にいる女性と比べてみると違いがだんだんわかってくる。例えば履物やポーズの取り方など。写実主義の応挙(とその弟子)だからこそ見えてくる。具体的には花魁は背の高い履物をはいており、重心は腰にあり、気の強さを想像させる顔つきをしている。右側の最も若い女性は上半身を緩やかに傾け、軽い会釈をしているように見える。また、着物も若々しさを感じさせる明るい色をしている。最も左側の女性は少し年齢を重ねているが、落ち着いた色を纏い、すっくと立っている。(一番目立たないけれども、品の良さは感じさせる)
○伊藤若冲
「笠に鶏図」
その名の通り笠の上に鶏が片足でおどけたポーズをとっている。鶏の目はひょっとこのようにおどけた印象をうける。漫画のようにも見えるけれども、鶏の体を知っているからこそ書き分けられる体毛の表現や、恐らく最後に描いたであろう尻尾の力強さが印象的。
「花卉雄鶏図(かきゆうかけいず)」
雄鶏が地面に何かを探すようなポーズをとっている。そばには草木がバランス良く配置されているけれども、雄鶏の荒々しい気性を表すかのようにそばにあるバラは刺々しく咲いている。写実主義の応挙が見たら憤慨するだろうけれども、雄鶏のささくれ立った空気がそのままのバラに移っているのようなデフォルメをさせているようで面白い。
○春画(Shunga)
正直入場料の¥2800円は安くはないけれども、この作品以外にもたくさん見るべきものはある(歌麿の他の作品、伊藤若冲、円山応挙など)。こちらも当日の再入場可能で入場券があれば隣接する足湯で疲れをいやすこともできる。広大な庭園もあるので一日ここで過ごすこともできる。
あえて改善点を挙げるとすれば、美術館に比べるとミュージアムショップがこじんまりしていることだろうか。ポストカードの種類があまり充実していないのが残念だった。
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最初に書いたように2つの展示場所はバス1本で行けるので強行で日帰りもできなくはないですが、じっくり見たいのであれば1泊をお勧めします。