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「誰からも頼まれもしない」ことを勝手にしよう(森博嗣)

「琳派と秋の彩り」展 ブロガー内覧会@山種美術館

山種美術館で開催中の「琳派と秋の彩」展の内覧会に行ってきました。
 
詳細はこちら。今回で8回目のようです。
 
美術館館長の山﨑妙子さんの解説を中心に見どころを紹介します。
※以下撮影した写真は今回の内覧会のために許可を得て撮影しています。
※撮影した写真の所蔵は特別に記載がない場合は全て山種美術館です。
 
○展覧会の目的
琳派400年記念に合わせて、琳派の中心人物の作品と琳派に影響された近代の作家の作品を合わせて紹介しています。また、今の季節に合う秋をテーマにした作品を展示しています。
 
琳派狩野派に代表される一門にとどまらず、風神雷神図屏風のように時間を超えて形を変えながら受け継がれていった特徴がある。展示されている作品にはいくつか共通したモチーフが挙げられる。
しかしながらそれらは忠実に再現するのではなく、新たな時間を経て絵が描かれた時代を超えて作家の目に触れた結果、作者によって新たな解釈がなされ、形を変えて受け継がれていきました。
 
本展覧会は全三章仕立てとなっています。
第一章「琳派の四季」では琳派による作品
第二章「琳派に学ぶ」が琳派の特徴を受けた近現代の作品
第三章「秋の彩り」が秋を題材とした近現代の作品(琳派の影響もみられる)
となっています。
 
一章に展示されている作品が後半の作品にどのような影響を与えていったのか、に注目してみると楽しめるかと思います。とはいっても、第一章にある作品は17世紀から19世紀まで幅があり、17世紀につくられた作品から影響を受けている19世紀に生きた酒井抱一や鈴木基一の作品の展示もあります。
17世紀の作品は画と書(俵屋宗達本阿弥光悦)や陶器職人の尾形乾山が描いた絵など絵を専門としない人も絵の作品に加わっているのが見て取れます。
 
尾形乾山「松梅図」

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言われてみると、梅の枝や花、また背景の描きかたが絵師のそれではなく、陶器に描かれたもののように見えてきます。特に花の部分
 
琳派に影響をうけていることを示す共通項をいくつか挙げていきます。
  • 金や銀
当初は装飾的な要素として用いられはじめたものの、効果的に用いられたり、偶然の産物を別の材料を用いて表現されている。
 
→月が発する光として輪郭部に金を用いることで装飾性よりも幻想的な印象を与える
酒井抱一「月梅図」

→柿の葉の葉脈として金を用いた

福田平八郎「すすき」
→川の水面として
加山又造「華扇屏風」
→銀が酸化されて黒くなったことにヒントを得たのか、最初から黒い月を描いた。(墨で描いたものとされる)
酒井抱一「秋草鶉図」(下図)山種美術館
など

 

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  • たらし込み
当初は水墨画技法として用いられるたらし込みを用いて当初は意図しない色のにじみを表現するものとして生まれた。

 

→意図して用いることで、単色でありながらも奥深さを描き出した。
速水御舟「桔梗」、「秋茄子」ともに山種美術館
など

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  • 草木・月
作品の主題として描く→主題を補う存在として描く
加山又造「満月光」
小林古径「夜鴨」
など
  
琳派と呼ばれる17世紀に描かれた作品群が時代を超えて多くの作品に影響を与えていることが共通項を見つけてみることでわかります。同時に、その影響の与え方が後年の作家によってさまざまに解釈され、新たな表現として昇華されているのもその魅力故なのだろうと思います。
 
特に印象に残ったのが、福田平八郎「彩秋」です。今回展示されている作品の中では最も抽象的に描かれた作品のようでした。描かれているのは柿の葉とススキです。作品説明によると著者はどうしても柿の葉の彩りを表現したかったと描かれています。通学路に柿の木があったのでその時の葉を思い出しながらその絵を見ているものの、そこに描かれている柿の葉は全く別もののように見えます。しかし、見ているうちに柿の葉以外に見えないようになってきます。ススキも単純な形で描かれているのにもかかわらず、存在感のあるススキとして柿の葉とは別にいきいきとしています。それだけ絵の持つ力が見る者を離さないのだと思います。「現実とかけ離れてしまった色遣いになってしまったけれど構わない」と作者は新聞のインタビューで答えていたのも印象的でした。(パネルに新聞記事の抜粋)
 

 

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後半は「秋の彩り」と題して、秋を題材とした作品が展示されていました。
奥田元宋の「奥入瀬」では紅葉の色味や絵の大きさに圧倒されて紅葉狩りにいったかのような錯覚に陥ります。
東山魁夷の「秋彩」では川端康成に「いつ描くの、今でしょ(意訳)」とすすめられて京都に足を運んで描いた山が描かれます。
 
そんな中一番印象に残ったのは奥村土牛の「あけび」です。波のように柔らかい線で描かれたアケビの枝と熟れたアケビ。シンプルでありながらも、茎の複雑さ、しかし軽やかな線で描かれているので思わずそれをだどってしまうほど見つめてしまいました。現実のアケビの枝はそれほど軽やかではないとおもわれるものの、思わず見る者の目を止める表現というのはこの作品のことをいうのかもしれません。
※ちなみに来年の3月より奥村土牛に焦点をあてた展示が行われるようなのでこちらも楽しみに待ちたいと思います。
 
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最後にこのような機会を提供していただいた山種美術館と青い日記帳のTakさんに感謝いたします。
日本の美術館ではなかなか写真可能な展覧会は難しいとは思いますが、このような機会でより多くの方に美術を身近に感じてもらえる場面が増えていってほしいと思います。