まいにち。まいにち。

「誰からも頼まれもしない」ことを勝手にしよう(森博嗣)

Do not go gentle into that good night

年があけてしまったが、2016年を振り返って、思うころを考えてみたい。
 
●想定外(?)の状況
英国がEUから離脱したり、アメリカの大統領にトランプ氏が選ばれた。また、東京都知事が変わり、オリンピックや豊洲市場などの都内の大きなイベントが混沌とした。これらはどれも予想していなかった。結果が明らかになった今では何を理由にしても間違いはないように思えてしまう。けれども、この状況はいかに自分が見えている世界が、j実はほんの一部分であることを意味する。幸いにして、英国は次期首相がすんなりと決まったり、アメリカの行方は未知数な部分も多いが、その分これまでよりも一層メディアによる監視が高まるため、大きな間違いは起きにくいだろうと期待したい。
けれども都知事については自分が選んだ候補者が当選したものの、ここまで自分本位な仕事ぶりに徹底するとは思わなかったし、一都民としてこれまでの職務には失望している。
数年前から当たり前のように使われる言葉として政治家が使うのが「民意」と「ファースト」であるが、これらの言葉は自分自身の仕事ぶりを肯定するための文句として用いられているので、自分の国の文化をクールと言ってしまうくらいうぬぼれた言葉だと思っている。今思い返せば、任期中に重要な仕事になるのはすでに〆切が決まっているオリンピックや行先が決まっている豊洲市場など、バトンを次につなぐタイプの候補者であったかもしれない。昨年読んだ回顧録(ガイトナー、ポールソン、そして緒方貞子)には自らの部下に不信感を持ちながら、危機に対応したものはいなかったし、世論やメディアからの追求(道徳に反する救済)があったとしても、実務者を信頼したうえで任務を全うする上司の存在は大きかったが、こうも違うものなのだろうか。
 
●専門家の死
2015年に引き続き、正当なプロセスを経て決まってきたものが政治の具にされ、覆水が盆に返ってしまった状況になった。
強健な体制に反発する姿は聞こえが良いし、例えば一昨年の安保論争が具体的な内容が追及されぬまま、盛り上がった。その純粋な訴えは見るものをひきつける。だが、一方で、体制が変わったとしても、誰かが火中の栗を拾わなければならない。仮にゼロに戻したのであればまた新たに積み上げなければならない。その際に、これまで積み上げたプロセスに費やした人や金をこのままゴミ箱に突っ込んでもよいのか、という想像力と、新たに栗を拾い上げることになる無名な実務者の仕事ぶりに敬意と信頼を置かなければ、遅かれ早かれ誰もが責任を恐れて逃げ出すだろう。粗さがしはするが、手を動かす人はいなくなった結果、存続できなくなる企業も出てくるかもしれない。
 
長時間労働と生産性
某広告代理店への強制捜査書類送検は見せしめのように行われているが、長時間労働がどのような理由で行われるようになったのかに踏み込まなければ、誰かが長時間の労働をしなければならないだろう。効率性の問題であれば、それを上げられるように、新しい技術を導入しなければならないだろうし、煩雑な事務仕事で本来の仕事の進捗に影響を与えているならば、全体を把握したうえで過不足ない手続きに変える必要があるだろう。国が営利企業の在り方にできる口出しは限られているだろうし、新しく作った規制で新たに必要な手続きが増えた結果、企業の生産性を下げることになっては本末転倒である。
そのため、各企業が横並びで対策をとるよりも、その会社の風土に合ったやり方で生産性を上げる努力が必要になってくるだろう。
 
●キュレーションと弱い紐帯
人々のニーズが多様化した結果、Amazonのような無数の商品を扱う企業が台頭し、品ぞろえの少ない街の本屋は姿を消しつつある。一方で、人々は情報に飢えており、昨日までは全くの無名だったものが、途端に表舞台に立ってもてはやされるようになることもある。一過性がありつつも持続性はあまりない。とはいえ、毎度毎度ヒットの打てるものを提供できる人は限られているため、21世紀はキュレーションの時代になる、とずいぶん前に某雑誌の副編集長の方から話を伺った。検索結果の表示順を利用した名ばかりキュレーションサイトの炎上はこのことを思い出したが、おそらく彼が言いたかったのはこういうことではないだろう。
口コミサイトは今や当たり前だが、その人の好みを全く知らないまま盲目的に信頼することを安易にできるかというとそうでもない。だからこそ点数の高さが重要になってくるのだろうが、その点数も某口コミサイトのように操作されていることもあって、参考程度にとどめたい。となると、買い物をすべて一つの店で買うのではなく、肉ならこの肉屋、野菜ならこの八百屋など、特定の分野でヒットを打てる人を知っておく必要があるのだろう、と思う。一方で、自分の足を使って探しだす行為も必要で、自分のアンテナに反応した店に出くわしたら検索しなくても飛び込む勇気も必要かもしれない。そこに飛び込んでみるとまた知らなかったことを知れるようになるし、新たな出会いが生まれる。
 
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便利になればなるほど、自分の目で確かめることが大切なのだなと改めて感じた1年だった。安易なものに身をゆだねるな。Do not go gentle into that good night.