まいにち。まいにち。

「誰からも頼まれもしない」ことを勝手にしよう(森博嗣)

デンマークにて

コペンハーゲンに向かうトランジットで保安検査の準備をしていたら手前でうっかり空きが出てしまった。いそいそとしていたら「Take your time」と声をかけられる。
海外旅行が久しぶりすぎて3年ほど空いてしまったが、時間に通りに滞りなく進むことが当たり前の東京モードになっていた私を優しく溶かしてくれる言葉がこの言葉だった。
 
ヘルシンキ(Transit)→コペンハーゲン→リーベ→オスロストックホルム(Transit)→ヘルシンキヘルシンキを起点に北欧を2週間弱で一周する予定を立てた。途中から息切れしてきてもう少しゆっくりしてもよいのではないかと少し後悔した部分もあったけれども、それでも、近くの国の違った町と人を見ることができて充実した時間だった。
 
***
 
コペンハーゲン中央駅は卒業旅行で訪れたアントワープを思い出す。アントワープといえば、世界で最もダイヤモンドの流通が多いらしいけれども、駅前の中央駅はがらんとしたロータリーで、これがアントワープなのか?と目を疑った。コペンハーゲンも駅前はロータリーで(それでも駅ナカにはいくつかの飲食店は入っているが)、縦に大通りが貫いている。日本の駅前の徒歩圏内に集中して繁栄している姿に慣れてしまったが、金沢に近い街並みであることにも気づいた。路面店など繁華街は駅から少し離れたところにある。
 
旅行に出かけるとその場所の地理を頭に叩き込むために徒歩で回ることが多いのだが、外はそれほど寒くない。少し前に仕事で北欧に行っていた方の話では、それほど寒くはない、とのことだった。現地について、日本から何か持ってくるものを忘れていたけど気づかなかったもの、帽子の存在を忘れていた。ただ、それがなくてもまだデンマークは過ごせたのだった。
 
コペンハーゲンでいくつかやるべきことをピックアップしていたのだが、最も重要だったのがアンティークの本棚を買うことだった。けれども配送料は現物の倍以上の料金がかかるという。It's too expensive、あきらめるしかなかった。.
 
まるで失恋したかのような気分で、外に出る。このままだとふてくされて暴食して終わってしまうので、少し都心から離れた旅に出ることにした。
地下鉄を乗り継いて、国鉄でKlampemborgへ。途中これまで一度も出会わなかった詐欺やジプシーに出会い、パリまでとはいわないが、いくら治安が悪くないからといって、ぼんやりしていてはだめだな、と身を引き締める。たぶんはた目にも弱って見えたのだろう。
 
無人駅を降りると、山の美術館に行く道と海へ行く道がある。バスはまだ来ない。海へ行くことにした。
 
海を見ると走り出してしまうのはなぜだろう、とおもいながらも、視界が開けた緩やかな坂道の先に広がるそれを見つけた瞬間、もう走り出していた。とはいえ、雪が残っているので、正確には小走りなのだけれども。

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Bellevue strandと名付けられてるその砂浜は、Bellevue(フランス語でいう美しい景色)そのままにとても良い景色だった。海岸線の向こうはスウェーデンの南側、ぼんやりと桜色を帯びていて、いつの間にか天空に来てしまったのかと錯覚するほどだった。冬の海を訪れる人は少なく、海岸線を犬を連れて歩いたり、ぼんやり歩いている人がいた。アルネ・ヤコブセンがデザインした灯台はシャキッとした姿で海のそばに立っていた。

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水の透明度は海であることを忘れるほど高く、時折灯台の下で裸で行水している姿をみかけたけれども、私の目には禊に近い光景に映った。太陽はまだ高い位置から私たちを照らしていて、砂浜をあちらこちら歩いているうちに少しずつ先ほどの感傷的な気分が薄れてきて元気が出てきた。まだ時間があるので、美術館へ向かう。
 
林の奥に見つけた美術館はブラックダイヤモンドの蛇のような姿を目の当たりにしたとき、なんでこんな姿にしたのかわからなかった。けれども、外周をまわって、てっぺんに映りこんだ木の陰だったり、ギラギラしたガラスに映りこんだ林の姿を眺めているうちに、不思議とこの建物がここにあってもいいのだな、としっくりきた。
 
 

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※先端はカフェになっている
 
平日にもかかわらず、美術館は盛況で、とはいえ大勢は年配の方だったけれども、熱気につつまれていた。Zahaが作った空間は企画展の部分で、常設のコレクションは昔の建物にある。企画展のギャラリーは二つに分かれており、最初の部分は長蛇の列ができていた。立ち止まって長い時間みることがなかなか難しかったけれども、ここまでの混雑さも彼女は予想できなかっただろう。
ギャラリー2は1に比べると空間が入り組んでいたが、その分、緩やかに構成を区分になっていたり、歩いていると、次へ次へと先に進みたくなるような洞窟のような作り(実際は一筆書きなのだが)になっていた。別の館の常設展にあったハンマースホイやピーターハンセンの絵に痺れた。カフェは混雑していて常に満員だったので入るのをあきらめた。日本に彼女の作った空間がは幻に終わり、政治の具にされてあっけない幕切れになったのは本当に残念としか言えなかった。

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Ordrupgaardの近くにはデンマーク生まれのデザイナー、フィン・ユールの自邸がある。通常だと平日と休日のみ開館しているのだが、幸いなことに訪れた日に空いていたので、見る機会を得た。平屋でL字型の空間には天井が高いためかゆったりとした作りになっている。家具や建物は彼自身が造ったものばかりだが、ところどころ美術作品もあり、住人がいなくても居心地の良い空間になっている。どの部屋にも窓があり、部屋の中にいても常に外界の存在を確認できる。長い冬で外にあまり出られない時期にもこのような作りになっていると、外を眺める楽しみができるのだろう。

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※木の枝が窓を横切っているのがなんともにくい

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※誰もいないのにおしゃべりしているように見える椅子

  
次回へ続く