まいにち。まいにち。

「誰からも頼まれもしない」ことを勝手にしよう(森博嗣)

「破壊しに、と彼女たちはいう」トーク 長谷川祐子×エリイ(Chim↑Pom)×スプツニ子!

キュレーターの長谷川祐子さんが最近出版した女性アーティストへの批評をまとめたトークショーに参加してきた。
 

破壊しに、と彼女たちは言う―柔らかに境界を横断する女性アーティストたち

ゲストはChim↑Pomのエリイさんとスプツニ子!さんだった。
 
トークショーなので、3人の対談形式で始まるのかと思いきや、長谷川さんが本を解説するという流れで進んだので、ある種講義のような緊迫感があったものの、途中からゲストの二人が茶々を入れることによって内容の雰囲気も変わってきた。
 
以下印象に残っているものを以下
 
●長谷川さん
 
・アーティストの性差による傾向
男性は時代精神を持ち、今の時代にどう反応しようかを考える傾向にあるため歴史という文脈で語られやすい。一方で女性は、時代精神よりも自己の内なる反応に正直である傾向があり、結果、時代を超越する存在になる傾向がある。
 
・リアリティという言葉の使われ方について(草間彌生
リアリティという言葉が誰にとっても共通するもののようにいわれているが、草間彌生にとってのリアリティはドットに覆われていることだった。自分にとってのリアリティが他人と同じであるとは限らない。
 
再春館製薬女子寮、21世紀美術館スイス連邦工科大学ローザンヌ校のプロジェクト(妹島和代)
妹島さんは嫌なものは嫌とはっきりいうタイプ。女子寮では朝起きたときにみんながひとつのエリアにしかないトイレに行く光景が嫌だったので分散させた。
21世紀美術館は開館前は様々な批判や懸念があった。「(このような先進的な美術館が金沢に生まれたのは)金沢は新しいものを受け入れる土壌があるのか」、という問いかけには、大部分が保守的であるが、当時の市長が危機感を感じており、このようなプランになることを受け止めてくれた。(買い物帰りのお母さんでも気軽に立ち寄れる美術館を、との依頼だった)
ローザンヌのプロジェクトでも、同じく同業者から批判が渦巻いたが、いざオープンしてみると、学校の関係者だけではなく、外部からも人が大勢訪れており、受け入れられている。建築としての正しさよりも建物として機能しているかに重きを置いている。
 
 
●エリイさん
ギリシャの展示から帰ってきた。ギリシャは政情不安なのは知っていた。今回一か月ほど現地に滞在したが、普通に生活する分には少し貧しい国だなとは感じたものの、政情不安さはわからなかった。けれども今回の展示場所が一日にしてもぬけの殻になったホテルで、時が止まったかのような感覚に陥った(カレンダーの日付はもちろんそのまま、朝食も用意されていたまま)。その場所に赴いて作品にかかわる過程でその国の両面について知ることができたのは貴重だった。
 
長谷川さんによるChim pomの解説で、「アイムボカン(セレブの慈悲事業で地雷撤去の補助を行うことにあこがれを抱き、自身のブランド品などをカンボジアの地雷で爆発させる。それらをオークションで売り、収益を現地に寄付する)」をセレブリティの「オマージュ」と書かれていたが、これはオマージュではないとして訂正を要求。
 
自身が最も好きなアーティスト、ルイズ・ブルジョワが本の中で言及されていないが、本に入れる入れないの取捨選択はどのように行ったのか。
→長谷川「この本は何作か続けようとしているが、まずはこれまで自分が書いてきた批評をもとにしている。次回に取り上げたい作家はあとがきで取り上げている(がルイズ・ブルジョワはなかった)」
 
「アーティストとして女性を意識することはあるか」、という問いには「私が何かその問いに答えられるとしたらChim↑Pomというユニットの存在がそうなのではないか。」
 
 
●スプツニ子!さん
 
ロンドンで活動していたときは当初音楽を作っていた。「生理マシーン、タカシの場合」は、長谷川さんのアシスタントがスプツニ子!さんの存在に気づき、長谷川さんやPaola Antonelli(Momaのシニアキュレーター)等からアプローチを受けたので思い出深い。けれどアプローチを受けた時はまだ作品は完成していなかった。
生理マシーンの動画が話題になってNASAから女性が宇宙に興味を持ってくれるようなアイデアを提供してほしいと依頼があり、ムーンウォークという作品を作った。火星探査機Curiosityの車輪にはJPL(Jet Propulsion Laboratory)という文字が埋め込まれているため、Curiosityの後にはJPLが火星の土に残るが、それを女性の象徴であるハイヒールにしようと試みをしようと企む話
 
 
 
MITは男性が多いが、自身が所属するメディアラボは女性が多い。MITの昇進システム(論文投稿で評価)は自身の成果とは異なるため、あまり長くここにはいられないかもしれないが、魔女集団としてやれることはやっていこうと思う。
 
ブルゾンちえみの「キャリア・ウーマン」について長谷川さんに批評してほしい(この場で見てもらう)。この動画を日本人の女性が見ると笑ってしまうが、いざ自分がこの動画のブルゾンちえみと同じことをやるととても気持ちが良いことに気付く。しかし、それを言い出せないために笑いでごまかしてしまう。
 

1時間30分という限られた時間でこの3人の話を聞くには短すぎるだろうな、と最初は思っていたがまさにそうだった。
トークの最初に何らかの衝突が予想されたものの、実際はそのようなことはなく、けれども長谷川さんの冴えわたる分析をかき乱すようにゲストの二人が今感じていることを投げかけてくれたので願わくばもう少し長く見ていたかった。会場にはChim↑Pomの他のメンバーや、長谷川愛さんも参加していたようなので、別の会場で延長戦を聞きたかった。
ゲストの二人の存在を長谷川さんは広く知られる前から長く見ていて、頼もしさを感じているようだった。ゲストの二人は活躍の場はインターネット空間とその場と対極的な部分はあるものの、アーティストとして活動するためには他者を巻き込んでいく力強さが求められ、目に見える形で成果を出す以上その部分は共通している。
長谷川さんのいう時代精神性という枠で考えれば、スプツニ子!さんは時代性もさることながら女性であることを意識した作品が目につく。一方のChim↑Pomは女性らしさよりも時代精神性を押し出しているようにも見えるが、アイムボカンはエリイさんの個人的な願望がスタートにあり、区別してとらえることはできないように思う。
 
日本ではアートそのものより、アーティストの雰囲気に重きが置かれている(特に女性の場合)が、私の見ている範囲内では、外見のイメージにこだわり作品に重きを置いているアーティストは時間がたてばいずれ淘汰されていくものであり、さらに海外に出ると、自身の作品の必然性や社会との接続を語らざるをえないのだろう(パッと見だけでは勝負できない)。あっという間の二時間弱のイベントだった。